六、桜の枝が折れた写真に喫驚 第七章 余録

六、桜の枝が折れた写真に喫驚

大正博出演の思出ばなし

『大正博覧会出演の折りは白山芸妓が、世の中に知らるゝ最初の第一歩であったから、三業組合は勿論、芸妓連の意気込みといふものは、白熱以上であった。 麻布芸妓の猫ぢやヽ踊りと拮抗して優に花やかな処を見せたのであるから人一倍の苦労も努力もあったのである。 〆吉姐さんなどは夢中になって唄ひ廻はる踊り狂ふ、上野の山の爛漫たる桜花の下に設けた屋台の上で公衆を前に其妙妓を御目にかけたのであるから、汗ダクヽの大奮闘、其折り枝もたわゝの満開の桜の枝がどう言ふハツミであったか、メリヽと折れて屋台に落ちて来た、傍に居た人々は夫れ危い、アレ危ないと大騷ぎ、然るに〆吉姐さん一向平気の平左衛門、泰然自若ではない、アノ手此の手の手振り鮮やかに踊り続けたと言ふ事であった。此の光景は記念の為めとあって写真に取られた。姐さん跡で此の写真を見てビツクリし、まア妾し、一寸も知らなかったわ、オヤヽあの時桜の枝が折れてオツコツて来たの、マアヽと、マアヽの百萬遍を繰返した程の熱度を示したとの事である。